ヌサンタラ・ワヤン週間2008、そして……
辞書によれば、ヌサンタラとはインドネシア群島のことである。そして今回日本ワヤン協会もいつの間にか、このヌサンタラの中に組み込まれ、ゲストでなく、大会の一員として顔を出している。これは好漢ヌルサットウィカ氏(通称パ・ヌル)の仕業である。私に何の相談もなかったのだが、それを知ったとき私もまあそんなものかなと思ったのだ。日本もヌサンタラもさほど区別するほどのこともない。
パ・ヌルはジョクジャカルタ特別州政府文化担当の高官で、この大会の実行委員長である。2005年第一回大会からのおつき合いである。素性の知れない日本ワヤン協会を大会に参加させて下さった。たまたまその時の「まぼろしの城をめざす」(浦島伝説異聞)を評価され、閉会式にのぞみ、州知事スルタン・ハメンクブウォノ手ずからの私への表彰状を按配されたのだった。
このときの新聞(スアラ・ムルデカ紙)に「日本ワヤン協会とワヤン・プルウォの関係はどうなのか。それは一個のインカルナシ(化身)である。それこそ、おそらくはこの両者の関係を的確に語っている言葉だ。」とあった。
このときから四年続けて、ジョクジャ、ソロでの上演(演目「水のおんな」「天人の羽衣」など)のチャンスに恵まれたが、この間にワヤン・ジュパンはジャワのワヤンの化身だという印象をいよいよ深めたようだ。真似ではなく化身だ、との評判は、私としては嬉しい。
この8月9日(ヌサンタラ・ワヤン週間2008の第2日目)の私たちの上演演目は「天人の羽衣」だった。コンパス紙の記事には、「物語、音楽、ワヤン・クリのかたちなどへのさまざまな変革、修飾でもって、ダラン、マツモト・リョウ主宰の集団は、一時間の上演の間に、多くの観衆の魂をうばうことに成功した。また別なユニークさは、この夜の上演が、琴、笛、琵琶、そしてガムラン楽器の合体におけるジャワ、スンダ、日本音楽の合体である。」とある。
パ・ヌルをはじめ多くの人が喜んでくれた。とりあえずは好意をもたれ、ここでもまたジャワのワヤンの化身だと評価され、光栄だと感じている。私としてはこの世の一個のふしぎな芸能の在り方が生まれていると想像していただければ、と思ってもいるのである。
8月16日、ジャワ最後の夜の食事を終えた頃、パ・ヌルはにこやかに、来年もつづけてヌサンタラ・ワヤン大会をもてるはずと、出演要請のワヤン・グループの名を指折り、その中にまたワヤン・ジュパンを数えていた。パ・ヌルの好意にまずは甘えながら、ふしぎな芸能、あえて国境を踏み越え、無国籍たらんとする芸能を、ぼつぼつ創っていければと思っている。
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